「僕は限りなく透明だ。それはこの世に存在しないからだ」

 

津川守(26)、派遣社員で都内某所在住。6帖の部屋とキッチン、築35年の木造アパート。

趣味はゲーム、漫画、アニメ鑑賞で仕事帰りは部屋に籠り、休日も外出することは殆ど無い。

時折孤独を感じた時は古い時計を眺め、目を閉じ、また眺めるのがいつしか習慣になった。家族とは疎遠で友人と呼べる者はおらず、彼は社会を拒絶する。本棚には漫画に混じっていくつかの童話の本がある。その中でも幾度も読み返されたであろう、薄汚れた『ピーターパン』。部屋の時間がいつしか止まると彼だけがその時自由であり、そして彼はゆっくりとキッチンへ歩を進め、閉まっておいた包丁を取り出し、右手で天井に掲げると、この物語は静かに、ただ静かに幕を開けた。

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